最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)676号 判決 1997年6月19日
神奈川県足柄下郡湯河原町鍛冶屋八六五番地の一
上告人
築城俊雄
右訴訟代理人弁護士
輿石英雄
神奈川県藤沢市本藤沢七丁目三番一七号
被上告人
株式会社インターナビシステム
右代表者代表取締役職務代行者
三野研太郎
右訴訟代理人弁護士
三好啓信
道下崇
南繁樹
右当事者間の東京高等裁判所平成八年(ネ)第一一一九号専用実施権登録手続請求事件について、同裁判所が平成八年一二月一九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人輿石英雄の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)
(平成九年(オ)第六七六号 上告人 築城俊雄)
上告代理人輿石英雄の上告理由
第一 専用実施権の合意解約について
原審判決は、債権契約としての本件専用実施権設定契約と本件共同名義変更契約とが並存することは何ら背理ではないこと、そして、本件共同名義変更契約が履行された後に本件発明が特許されれば、被控訴人会社(被上告人)と控訴人(上告人)が本件発明を実施する権利を有するのに対し、本件専用実施権設定契約が履行されたときは、被控訴人会社(被上告人)のみが本件発明の実施ができ、控訴人(上告人)は実施権をもたないことを述べたあと、従って、本件共同名義変更契約が締結されたとしても、小野が本件専用実施権の履行に全く重きをおいていなかったとは考えられないので、本件共同名義変更契約締結の事実のみから、本件専用実施権設定契約解約の合意がなされたことを推認することはできない、と結論づけている。
しかしながら、原審が右のように判断したことには経験則に反する法令違背があるというべきである。
すなわち、すでに主張している通り、被上告人代表取締役小野は、本件専用実施権設定契約に重きをおいておらず、それよりはむしろ、本件発明が特許登録される以前にも現実に手続を取ることができる共同名義変更契約を締結するよう上告人に求めてきたのである。そして、代表取締役小野は、乙第一四号証の代表取締役会議事録において上告人と共同名義変更の合意をしたのと同時に(同じ平成四年一月二二日に)、右乙一四号証に重ねて、さらに甲第一三号証の誓約書を上告人と取り交わしているのである。この誓約書によれば、将来的には被上告人が単独で特許名義人になることになるのである。代表取締役小野の意図は、この時期においては本件発明がいつ特許登録なされるのかが全くわからなかったため、専用実施権の設定ではなく、むしろ特許出願人を被上告人単独名義とすることによって本件特許を被上告人において支配したい、というところにあったのである。その強い希望を表わしているのが、乙第一四号証と同じ日に、これに重ねてさらに上告人と取り交わした甲第一三号証の誓約書なのでおる。
右の通り、被上告人が上告人と本件共同名義変更契約を締結した平成四年一月二二日の時点においては、被上告人は、本件特許出願人名義を、共同名義というよりはむしろ被上告人の単独名義とすることを意図していたわけであるので、本件共同名義変更契約の締結によって従前の本件専用実施権設定契約については解約の合意がなされたと考える方が、むしろ自然であり経験則にかなっているというべきである。
従って、右と違った認定をした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則に反した法令違背があるものというべきである。
第二 本件専用実施権設定契約解約の抗弁について
この点について、原審は、本件専用実施権設定契約第一四条の解約条項の趣旨を、客観的にみて被控訴人会社(被上告人)の事業を継続することが困難な状況にあることと認定しつつ、職務執行停止の仮処分により職務代行者が選任されているので被控訴人会社(被上告人)の常務は滞りなく遂行できること、本案判決が確定すれば、取締役の選任等に関する紛争は解決され通常の状態に復することから、仮処分命今がなされたことは、被控訴人会社(被上告人)の事業を継続することが困難な状況にあることに該当しないというべきである、と結論づけている。
しかしながら、上告人が被上告人の株式二〇〇株のうちの一〇二株を所有し、かつ、取締役三名の内上告人とその妻の二名が取締役となっているということは、上告人が被上告人と本件専用実施権設定契約を締結するに当たっての前提であった。つまり、上告人は、被上告人代表取締役小野より、被上告人の株式を過半数以上もち、役員についても取締役三名中二名を着めているのだかち、被上告人は上告人の会社と同じである、だから専用実施権を結んでも心配ないだろうと言われて、本件専用実施権設定契約を締結したのである。しかるに、代表取締役小野は、その後右の前提を一方的に覆してきたのである(上告人としては、代表取締役小野に欺されたという思いをもっている)。従って、現在職務代行者が選任され、将来本案判決が確定したとしても、上告人を欺罔し、上告人が本件専用実施権設定契約を締結した前提を覆そうとした小野が株主であり役員を勤めている被上告人において、本件特許事業を継続していくことは、経験則から考えてみて客観的に困難であるといわざるを得ない。
従って、上告人からの解約権の行使を認めなかった原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明ちかな経験則に反した法令違背があるものというべきである。
以上